早いもので、あっという間に9月になりました。とはいえまだまだ 暑い日が続いております。京都も一度は涼しくなりましたが、ぶりかえしました。 こんなときは、何を着て行こうか迷われることも多いと思います。
しかし、9月は本来は絽の季節ですし、10月になれば冬物になります。 昨今の10月は、まだまだ冬物をきちんと着るには暑い日が多いです。 それに、昔に比べるとどこも空調が効いているので、あまり季節ごとの 衣が必要ないと感じることも多いことかと存じます。
しかし、夏物と冬物の衣はまったく違うので、一目でわかってしまいます。 仕方なく衣替えをされる方もいらっしゃるかとおもいます。環境が変わって きているので、見えない部分で工夫をしないと、衣に袖を通すことが 苦痛になってしまうかもしれません。透けないけれど涼しい素材など、 時代に合わせて技術開発もされてきております。またご希望がありましたら ご相談ください。
それよりも、夏の衣をそのまま5月末まで箪笥にしまわれる前に、 ぜひしっかりと乾燥させたり、もしくはクリーニングに出されることを おすすめいたします。特に淡色物はカビが来てしまうとすぐにわかります。 もったいないものです。いつまでも良い状態でお使いいただけることを 願っております。
以前、紬については触れておりましたが、羽二重については触れておりませんでした。 今回は、羽二重についてお話させていただければと思います。
羽二重といえば、法衣以外でも良くお使いになられる冬用の素材であります。 いわゆる和服における紋付や襦袢、その他でも使われることの多い生地です。 素材的には、あま撚りの平織りになります。あまり撚りのかかっていない糸で、 上下上下と糸を入れ替えて普通に織られているものです。なので、非常に良い 光沢とドレープ性があり、それでいて持ち前のしっとりしてとろっとした 絹自体の特性を最も味わえる素材です。実際、扱っている私どもとしましても、 最高の素材のひとつと言えます。
竹取物語に出てくる、火鼠の皮衣というものが石綿だったという説や、 実はこの羽二重だったという説もありますが、確かに化繊に比べますと、 少々の火には強いところもあります。もっとも天然繊維ですから、 火をつければ確実に燃えてしまうのですが。
ときどき、古物を預らせていただいたとき、今ではなかなか作れない 上質な羽二重に出会うことがあります。上質なものを作るには、長い糸で、 あまり太くまとめていない細い糸で、緻密に織っていく必要があります。 途中で切れたりすると織機が止まりますので、いい生糸を使わないと 細い糸では織れないのです。そのような生地に出会ったときは、 織職人さんの顔が浮かんでくるような気がします。
いただき物でしまってある生地があったりしたとき、古くてもそれは むしろ昔だから作れた優れた品であるかもしれません。箪笥の中で、じっと 待っていてくれた生地などがあれば、とても楽しいことがおこるかも しれないですね。
しばらくご無沙汰してしまいました。申し訳ありません。これからまた続けていきますので、 よろしくお願いいたします。
季節柄、雨が心配になることが多いかと存じます。化繊のほうが安心ではありますが、 実際に着てみると、正絹のほうが涼しいものです。しかし、これから蒸し暑くなってくると、 どうしても汗が染みてしまったりしてしまいます。特に衿が汚れてしまったりしてしまいます。 もちろん干してから収納されるとは存じますが、来年になってみて、衿にカビがきたりして 驚かれることもあると思います。
今はカビもかなり落ちますが、一度カビがきたものはどうしてもまたきやすくなります。 できれば衣替えのときに、クリーニングをされてから収納されたほうが良いのですが、 そうは思っていてもついついということもあるかもしれません。
また、汗のシミで衿が白くなってしまうこともあります。気をつけていても、 擦れるところは生地の繊維の中が出てしまい、白くぼやけてしまうこともあります。 そのようなときは、前号にも書きましたが、色を上から部分的に乗せてきれいに することもあります。
またいろんな技術もご紹介させていただきます。もうちょっと砕けた話も書いていこうかと おもっております。できるだけ定期的に続けていきますので、暖かく御見守りくださいませ。
正絹の法衣をクリーニングに出されたご経験をお持ちの方はたくさんいらっしゃると思います。 しかし、出されるときに不安を感じることも多いのではないかと存じます。
一言でクリーニングといいましても、実は多くの種類があります。いわゆる丸洗いというのが 一般的ですが、単色の法衣ではちょっとした汚れやキズがとても目立ってしまったりもしてしまうものです。 そこで、私どもでクリーニングをお受けさせていただくときは、可能ならば一度現物を確認させて いただきまして、必要であればいくつかの工程の追加を提案させていただくことがございます。
よくあるのが雨にかかったときにできる水型落しです。多くの絹の染料は水性です。汚れなどを ベンジンで落とすことができるのは、ベンジンのような揮発油には染料が溶けないからです。 雨によって張りの糊成分や汚れなどが動いて水型ができると、それを落とさないと ムラのように見えてしまいます。
また、衿などの擦れるところが白くなってしまったりすると、部分的に色掛をすることもあります。 夏物によく見られる汚れです。どうしても夏は汗をかきますので、衿が汚れてしまいます。 現在は特に白物の場合ですと、良い漂白技術ができてきましたのでかなりきれいになります。 さらに撥水加工をすると、水をはじいてくれるようになりますので、汚れにくくなります。 色物は特に水型などが出やすいので、撥水加工はおすすめです。
しかし、どっぷりと濡れてしまったりすると、生地が縮んだり伸びたりしてしまい、生地表面も しぼしぼになり、仕立も狂ってしまいます。こうなると、一度解いてから必要であれば色を直し、 張りなおしてからもう一度仕立て上げます。とてもきれいに仕上がります。
このように工程が変わると費用も変わってまいりますので、もちろんすべて事前にご連絡を させていただいてから、作業にかからせていただきます。あきらめる前に、一度ご相談下さいませ。
正絹の着物のお手入れについては、もう十分にご存知のことと思います。 釈迦に説法とはこのことかもしれませんが、改めましてここでも触れてみたいと思います。
まずは湿気を防ぐこと。これはカビや害虫を防ぐ上で欠かせないことです。 カビは、おかしな匂いがすると思ったときにすぐに処理をしないと、星のような黒点が 出てしまい、落とすのに大変な費用がかかってしまうことになることがあります。 また、害虫にはヒメカツオブシムシやコイガなどの幼虫がありますが、穴をあけられて しまうとカケツギなどでごまかすことになってしまいます。
こういった被害を防ぐためにも、春と秋の虫干しはもとより、普段からもご使用後には 軽く干しておかれることをおすすめします。といっても、ハンガーなどにはかけることは おすすめできません。絹は体に沿って馴染んでくれます。着た直後の体温があるうちは、 ハンガーにも沿ってしまうことになりかねません。よって、体温のあるうちに広げて 形を整え、そして衣文掛に干してしわを伸ばし、、畳んで仕舞うというのが一番だと思います。
毎回これを行うのは大変と思われるかもしれませんが、慣れてしまえばすぐですので、 また長く私どもの法衣とお付き合いいただければと願っております。
絹といっても、織り方によっていろいろな種類があります。羽二重、塩瀬、縮緬、紬といったものから、 夏物の紗、絽、さらには織で柄を浮き出す錦、綾、緞子など、幅広いです。実は羽二重や塩瀬でも 紋を織り出すこともできます。紋羽二重、紋塩瀬などと呼ばれます。
その中で、今回は紬に触れてみたいと思います。紬は糸の段階からほかの絹とは異なっています。 絹糸は2重構造になっており、中心部分と周りとは違うたんぱく質でできています。 その中心部分だけを紡いで糸にし、織り上げたのが紬です。よって、ほかの絹製品と比べると、 独特のシャリ感が楽しめると思います。
もっとも、もともとはくず糸やくず繭から作られていたという経緯もあり、糸の太さも一定に することはなかったということからも、独特の節があります。これもまたいいものです。 しかしその堅さと丈夫さから一般の普段着として使われてきた歴史があるため、紬は正装には ならないようになりました。
昔は農村の女性が副収入として紬をこしらえていらっしゃいました。しかし、現在は手で織られることも 少なくなり、織機で織るには節のところで糸が切れてしまうことから均一の太さの糸が用いられることが 多くなりました。なので、逆に節のある紬のほうが高くなってしまうことがあります。
そのような紬ですが、被布やコートにはとてもいい風合いがございますし、袴にしても その堅さが非常に生きてまいります。白山紬の裁付袴などは、風合いと艶のどちらも生かした 作りになります。また、紬は横に節があるのが通常ですが、縦に節のある生地を用いますと、 見た目もスリムになります。いろんな生地を取り揃えておりますので、生地を選ぶところから ぜひお楽しみくださいませ。
しばらく間が明いてすみませんでした。ちょっと麻はひと段落して、絹の話をさせていただこうかと思います。 ご存知のとおり絹は高級品ですが、やはりそれにはそれ相応の理由があります。今回は素材それ自体について 触れてみたいと思います。
絹は蚕によって紡がれますが、自然から取れる最も長い繊維です。光沢があり染色が可能で、冬は暖かく夏は涼しく、 適度に熱にも強く、蛋白高分子なので水にも油にも耐久性があります。 そして何よりそのドレープ性に大変優れています。ドレープ性とは、ゆったりとまとわせて柔らかく ひだを作る能力です。そのおかげで体にしっくりとまとわりますし、着心地を高めてくれます。 そのまとわりのおかげで、とても落ち着いた立ち居姿になるわけです。
その特徴をもっとも感じられるのは、羽二重と呼ばれる平織りです。光沢があり、柔らかく、 法衣としてはとてもよく使われる素材ではないでしょうか。
しかし天然素材であり、糸は育てた繭から引き出し、太さを揃えるために数本を撚り(羽二重は甘撚りですが)、 それを織って1反(約12m)の無傷の白生地を織り、精錬をしてやっと白生地となります。 さらにそれを染め、糊で張り、やっと法衣地になります。そして職人の手仕事で仕立て上げます。
うまくお手入れをしていただき、ご使用いただければとても長く使えるのも事実です。 現に、うちの先々代が仕立てさせていただいた法衣が今もあちこちで使われております。 一度役割を終えても、染め直して仕立て直し、また生き返ることができるのも絹の良いところであります。 私どもの法衣が皆様と長くお付き合いできることを願っております。
麻といえば、おそらくイメージされるのはごわっとしたものを想像されるのではないでしょうか。 まさにその通りなのです。しかし、のれんに使われている麻もあれば、着物に使われている麻もありますし、 麻袋に使われている麻もあります。これらは同じ麻?と思われたことはございませんでしょうか?
実は、日本語では「麻」という言葉しかございませんが、これは総称なのです。 大麻に類似した繊維が取れる植物のことを麻と言うようになりました。 英語には麻に相当する言葉はありません。それぞれに名前がついているからです。
では、いわゆる麻とはどんなものでしょうか?実は日本で使われているのは、大きく4種類です。 ヘンプ(大麻)、リネン(亜麻)、ラミー(苧麻)、ジュート(黄麻)です。 国内では、亜麻と苧麻が麻に分類され、そのほかはその他麻類という分類になります。 それぞれに特徴がありますが、基本的には同様の特徴を持ちます。 細かな特長については割愛させていただきます。
法衣として使うに当たっては、その原材料の品質はもとより、その苧を作り、麻糸を紡ぎ、 織り上げるその工程で品質が大きく異なってきます。その品質は絹よりも多岐に渡り、 上物は今となっては圧倒的に絹よりも高いものになってまいりました。
私どもでは麻を扱う機会も多く、そのため品質には細心の注意を払うように心がけております。 繊維の長さ、糸の細さ、織の細かさ、晒しの程度など、気を使って検品をしていても、 染めてみるとキズがあったりして目玉がひっくり返ることもある怖い生地です。
しかし、さらりとした着心地は爽やかですし、上質の麻の艶はまた格別のものです。 シワは素材的に仕方のないところなのですが、下の手入れの話もご参考いただいて、 快適な夏をお過ごしいただければと思います。ちなみに御袈裟としてお使いいただくには、 夏冬の違いがなくて便利にお使いいただけます。
今後、いろいろと法衣についての情報を、提供していければと考えております。今回は、麻について少しお話させていただきます。
法衣の生地としましては、絹はもちろん、麻や木綿、その他化繊もたくさんの種類がございます。 その中の麻は、夏物の白衣などによく使われていることでも馴染みがあるのではないかと存じます。
麻は通気性もあり、夏には涼しい素材です。天然植物素材としては、とても長い繊維であり、熱にも強く、 着ている分にはとても快適ですが、シワになりやすいという特徴があります。 なので扱いが大変と思われている方もたくさんいらっしゃると思います。
お客様のお話をうかがっていると、「縮む」と言われる方と、「伸びる」と言われる方の両方が いらっしゃるのでどうなのかと思っておりましたが、主に洗濯にその理由があることがわかりました。
昼に干して夏の強い日差しで乾かすと、大体において縮みます。そしてごわっと固くなります。 ところが夜に干すと、むしろ伸びてやわらかく仕上がります。上手に干せばアイロンも必要なくなるようにもなります。 お勧めとしては夜に洗濯をして朝まで干せば、扱いも楽に思えるようになるのではないかと思います。
木綿なども同様の性質があります。よろしければ一度お試しくださいませ。
久々に更新いたしました。白衣地の説明に誤りがありました。「カシミヤ」の説明で、 軽いと表現しておりましたが、こちらは誤りです。実際はさほど軽くはないです。 着心地がいいという意味で、そのように表現してしまいました。
またもし間違いなどございましたら、ご指摘くださいませ。
京都も春めいてまいりました。 今年は暖冬と言いながらも雪も降り、冷え込んだ冬でしたが、皆様もどのようにお過ごしでいらっしゃいましたでしょうか。
またご縁があり、ご覧の皆様にお会いできることを楽しみにしております。